ひだまり日記

8月号:「さっき」は消えている

中程度・重度の痴呆(認知症)の方にとって「昨日」「今朝」「さっき」という時はなくなってしまうようです。(個人差がありますから全ての方がというわけではありません。)

ひだまりでの例をご紹介しましょう。まな板に置いたきゅうりを眺めて「どう切ります?」とYさん。スタッフが「千切りに」「細い千切りね、はいはい」とまな板に向かったとたん、「どう切ります?」…ということに。この場合は、千切りきゅうりを置いておくと大丈夫です。また、ひだまりには猫が6匹いますが「猫がたくさんいるのねぇ。何匹?」「6匹です」…「かわいい、ここにもいるわ。何匹いるの?」。猫は置いておけないので、そのつど6匹です、と。一瞬にして「さっき」が消えてしまうのが痴呆(認知症)症状の一つです。

ご家族は色々工夫され何とか生活がスムーズに送れるようになさるのですが、結局いたちごっこになってしまうようです。たとえば、ご家族が出かけなければならない時、メモに「昼食後、薬をのむこと」と書いておいて置きます。ご本人は昼食を召し上がってメモを見ます。「薬、薬」とがんばって飲まれます。が、メモは目の前にあります。一瞬後、捨てていないメモが目に入ります。お茶碗やお皿も目の前にあります。食べた記憶ははっきりしないけれど証拠になる食器があるから食べたのだろう…、

じゃあメモにあるから薬を飲まなきゃ!ご家族が置いて下さった薬はもうありませんから、自分で薬を探し始めます。必死に家中探し回ることになるでしょう。探しているうちに今度は何を探していたのか分からなくなってしまいます。家の中はめちゃくちゃ、ご本人も混乱してしまいます。こんなことが実際に起きるのです。

メモやカレンダーに書き込んでおく、こんな分かりやすいことでさえ『「今」と「過去の生きがいを感じていた大好きだった時間」に生きている』痴呆(認知症)の方にとってはトラブルの原因です。この繰り返しが介護ご家族の生活を乱し、ストレスになるのです。
誰も悪いことはしていません。誰のせいでもありません。私はよく「痴呆(認知症)は神様が下さる最後のプレゼント」と書きます。近く終わる命を直視する恐怖を忘れさせてくれる素晴らしいプレゼントのはずです。が現実は「悪魔からのプレゼントなんじゃない?」という思いをもたれる方がほとんどでしょう。

ご本人にとってもご家族にとっても良いプレゼントだったと思えるために、お互いが楽になることが大切でしょう。ご家族が安心して生活できるためにホームヘルパーやショートステイを。健康管理のために訪問看護士を。安全な入浴やレクリエーションのためにデイサービスを。介護保険サービスを使っても足りない部分については地域のボランティアを。

ひだまりは近いうちにもう一つ拠点を作る予定です。ボランティア活動の拠点・初期認知症の方のデイサービス・デイサービスご利用の方が必要なとき泊まることも出来る、そんな場所です。現状の福祉サービスの穴を埋めるための拠点です。読者の皆様の中で、ボランティアや何か教室をなさりたいと思っていらっしゃる方にジャンルは問わずお使いいただける場所にしたいと思っています。デイサービスのスタッフも募集しています。関心をお持ちくださった方はぜひご連絡ください。

(ひだまり日記 2005年8月号掲載分)
by hidamari-blog | 2005-08-28 15:00 | 認知症
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